イランの核開発の時系列推移(含、疑惑)

注)この記事は、当ブログ著者資料としてまとめたものです。
 緑色の文字は当ブログ著者の補足・私見です。

第1期:パフラヴィー朝時代(〜1979年)― 米国支援による平和利用

1957年、米国とパーレビ政権下のイランが「平和のための原子力(Atoms for Peace)」プログラムの一環として民生用原子力協力に合意し、米国は研究用原子炉などをイランに提供した。
また、西ドイツもブーシェヘル原発の建設に協力した。(出典:Scgr住友商事グローバルリサーチ株式会社(Sumitomo Corporation Global Chemical )

この時点では、イランは「親米」国家であり、原子力は純粋に平和利用目的だった。

1968 イランは核不拡散条約(NPT)に署名

1970 核不拡散条約(NPT)を批准

第2期:イラン革命後〜イイラク戦争(1979〜1988年)― 秘密核開発の萌芽

1979:イスラム革命によりパフラヴィー朝が崩壊。イランは反米・反イスラエルに転換。

1985年:イランは闇市場を通じた秘密裏の核燃料サイクル技術の取得を決断。これはイラン・イラク戦争の最中であり、イラクの化学兵器での攻撃に晒され、国際的に孤立していた時期だった。この時点での決断は、将来の核兵器開発の可能性を模索するための「潜在的能力」の追求と研究者は分析している。 (出典:JST 国立研究開発法人「科学技術振興機構(Japan Science and Technology Agency))

1987年:パキスタンと原子力協定を締結するなど、頓挫していた核開発を再び活発化させた。(出典: Japanese Senate 参議院の調査報告書(立法調査資料、2007年))

第3期:秘密施設の発覚と国際社会との対立(2002〜2013年)

2002年8月:イランの反体制派組織であるイラン国民抵抗評議会が、イランがナタンズに大規模なウラン濃縮施設、アラクに大規模の重水製造施設を秘密裏に建設していることを明らかにした。イラン政府はこれらの施設の建設を認めたが、すべての原子力活動は平和的目的であると主張した。(出典: Ministry of Foreign Affairs of Japan (出典:日本国外務省))

2002年の調査で判明した事実:その後の調査により、イランによる過去18年間に及ぶウラン濃縮実験の事実等が報告され、IAEAに対する義務違反が明らかになった。つまり1984年頃から秘密裏に活動していたことが発覚した。(出典: Japanese Senate 参議院の調査報告書(立法調査資料))

2003年末まで:IAEAは、イランが核爆発装置の開発に関連する活動を2003年末以前には組織的に行っていたとみられ、それ以降も一部の活動が継続している可能性があると結論づけた。(2011年のIAEA報告書)(出典:Jiia  Japan Institute of International Affairs(日本国際問題研究所))

2010年頃:イランは医療用燃料用だとしてウラン濃度を約20パーセントに高める濃縮活動を開始した。これに対し、アメリカ及びEUはイラン産原油輸入禁止などの独自の経済制裁を強化したが、イランの核開発は止まらなかった。(出典: 防衛省防衛研究所)

第4期:JCPOAの成立と一時的な制限(2013〜2018年)

※JCPOA:Joint Comprehensive Plan of Action 「包括的共同行動計画」

2013年:穏健派のハサン・ロウハニ政権が誕生すると、イランの強硬姿勢に変化が見られるようになった。これを契機として、同年11月に関係6カ国とイランとの間で「共同行動計画」が暫定合意された。 (出典:防衛省防衛研究所)

2015年7月:JCPOA正式成立。イランがJCPOA以前に既に19,000基も設置していたウラン濃縮用遠心分離機を5,060基だけに限定し、15年間濃縮上限が3.67%で濃縮ウランの貯蔵量を300kgに制限することにより、イランが核兵器1個分の核物質を製造するために必要な時間(ブレークアウト・タイム)を1年以上に引き延ばすことを可能にした。(※) (出典: 防衛省防衛研究所)

この時点でのポイント:その後もIAEAは、イランが合意を順守していることを累次確認している。JCPOAが機能していた約3年間、イランは約束を守っていた。 (出典:MOD 防衛省公式サイト)

※ブレークアウト・タイム
① 遠心分離機を19,000基→5,060基に削減=濃縮を進める「速度」を大幅に落とす
② 濃縮ウランの貯蔵量を300kgに制限=「在庫」を持てなくする(核兵器1個に必要な量は約1,000kg以上)
この2つが合わさることで、「もしイランが今日突然条約を破って核兵器を作ろうとしても、最低1年はかかる」という状態を作り出した

第5期:JCPOA破棄と核開発の急加速(2018年〜2025年)

2018年5月:トランプ米大統領は、現在のイランとの合意では完全に履行されたとしても短期間で核兵器を完成させる寸前までたどり着ける、また弾道ミサイル開発への対応に失敗しているなどと指摘したうえで、米国は合意から離脱すると表明した。(出典:MOD 防衛省公式サイト)

※トランプの「時限爆弾」論
JCPOAには期限付きの条項が多数あり、トランプはそこを非難した。
JCPOAの主な「期限切れ」スケジュール

  時期        期限が切れる制限
2025年(10年後) 遠心分離機の数の制限が撤廃される
2030年(15年後) 3.67%濃縮上限が撤廃され、300kg貯蔵制限が撤廃される
2035年(20年後) ほぼ全ての核関連制限が撤廃される

つまり「完全に履行されたとしても」=「イランが約束を守り続けたとしても」、2030年以降は合法的に制限なく濃縮できるようになる、ということ。

2019年5月イランは米国がJCPOAから離脱した1年後の2019年5月8日、JCPOAの合意履行の一部停止を表明。60日毎に停止の範囲を拡大していくとし、段階的に履行停止の範囲を拡大した。

2019年7月1日に濃縮ウラン保有量が制限を超過した。 (出典:Japan Atomic Energy Agency (JAEA)日本原子力研究開発機構)

2021年以降:2018年にアメリカのトランプ政権(第一次)がJCPOAから一方的に離脱したため、2021年からイランは濃縮度60%のウランを製造し、保管してきた。

核兵器級は90%以上であり、60%はその一歩手前(出典: The Sasakawa Peace Foundation(笹川平和財団))

2025年6月時点:ウランの濃縮度を60%まで高めておくことで、そのまま濃縮を進めれば、3週間程度で濃縮度90%の核兵器級ウランを製造できる仕組みにしておいている。(出典: The Sasakawa Peace Foundation(笹川平和財団))

※当ブログ著者の私見
イランはオバマ政権との合意JCPOAを忠実に履行していた。IAEAの査察も受け入れ約束を遵守していることが確認されている。

トランプ政権一方的にJCPOAを破棄して以降、イランはJCPOAの合意履行の一部停止表明したうえ、段階的にウラン濃縮度を上げ60%まで高めた。ただしここで止めている

つまり、いつでも核兵器製造が可能な90%に濃縮できることを可能にしたまま止めている
これは核不拡散条約(NPT)を遵守したまま、「核兵器を持つ能力」があることを示すイラン流の抑止力

第6期:米・イスラエルによる軍事攻撃(2025〜2026年)

2025年6月13〜24日イスラエル及び米国によるイランの複数の核施設への軍事作戦が行われた。

これを受け、IAEAイランにおける検証活動を停止し、安全上の理由からイラン駐在の全査察官を撤退させることを決定した。 (出典:Japan Atomic Energy Agency (JAEA)日本原子力研究開発機構)

被害と限界:米国防情報機関の初期分析で「イランの核兵器取得を数カ月遅らせただけ」とする米国メディアによる報道があること、すでに濃縮したウランについては攻撃前に移動させ、約400キロの60%濃縮ウランは無傷とみられることなどが指摘されている。 (出典: The Sasakawa Peace Foundation(笹川平和財団))

まとめ

時期         状況

1985年〜   秘密裏に核燃料サイクル技術の取得を開始(イラン・イラク戦争中)

2002    秘密核施設が発覚。過去18年の隠蔽が判明

〜2003   IAEAが「核爆発装置開発に関連する活動を組織的に行っていた」と認定

2015〜2018年 JCPOAにより制限・監視下に置かれた(この期間は約束は守られた)

2018年〜   米国のJCPOA破棄をきっかけに核開発を急加速

JCPOAより30年以上前にイランの核開発の疑惑・実態は存在していた。

JCPOAはその「危険な核活動をいったん封じ込めた合意」だったが、トランプ政権が一方的に破棄したことで封じ込めが解け、イランは一気に60%濃縮まで突き進んだ

ハメネイ師の「宗教上、核兵器は持たない」というファトワー(宗教令)については、イランのアラグチ外相は2025年2月、核兵器保有イランの最高指導者アリー・ハーメネイーがイスラム教のファトワーで禁じていると説明している。ただし、60%濃縮ウランを大量保有し3週間で兵器級に転換できる状態を維持することは「核兵器を持つ一歩手前の状態を意図的に保つ」戦略とも解釈でき、国際社会が強い疑念を抱く根拠となっている。 (出典:Wikipedia)

※当ブログ著者の私見
少なくともJCPOA以降イランルール・条約を守っている。ただし「いつでも核兵器を持つことが可能である」ことを示威することで、核不拡散条約(NPT)の非核保有国としてのぎりぎりの抑止力を維持していた
。日本のような「核の傘」を持たない非核保有国としては、苦肉の戦略ではないだろうか。

しかし、JCPOAを一方的に破棄して武力攻撃に至ったトランプ政権の行為で今後どうなるか、現在イランと米国が60日間の協議に入っている。(2026年6月28日現在)

当資料をもとに描いた風刺漫画コチラ

●提供は「森園知生の小説工房」

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