第88回オール讀物新人賞最終候補作
第88回オール讀物新人賞最終審査に使われたゲラ
■小説本編はコチラ
(今読み返してみると、修正したいところは多々ありますが、応募原稿のまま掲載します)
■選考結果はコチラ
受賞された柚木麻子さんと坂井希久子さんは、現在第一線の作家として活躍され、 柚木麻子さん は直木賞に4度ノミネートされています。近い将来に受賞されることを心からお祈りしています。
■最終候補選評
『江ノ電鎌倉発0番線』 への選者先生方の評価は総じて「既視感がある」で、受賞に至らなかった理由はそこでした。たしかに冒頭の江ノ電鎌倉駅0番線ホームの描写が『ハリーポッター』のホグワーツ行き9と3/4番線を思い起こさせるのは否めません。それでもS.S先生にだけは「既視感は巧さゆえ」「この作者ならではの題材に出会ったときに、はっとするような作品を書かれるだろう」という身に余るお褒めの言葉をいただき、正直、涙が出ました。おそらく私は、このときの先生のお言葉に励まされ、背中を押されながら今日まで書いてきたのだと思います。
しかし今は、この『江ノ電鎌倉発0番線』が第88回オール讀物新人賞を受賞できなくて本当に良かったと思っています。というのも……、今だから言えることですが、何を隠そう……。
■『江ノ電鎌倉発0番線』には重大な瑕疵があった
その「瑕疵」について、おそらく主催出版社の編集部の方も、選者先生方のどなたも気づいていなかったと思われます。というのも、選評の中には、それについての指摘は微塵もなく「既視感」がこの作品の弱点とされていたからです。(上掲の選評を見ていただければわかります)
じつは、この「第88回オール讀物新人賞」はオール新人賞史上最高の応募総数(2,372編)となりました。というのも、それまでは「オール讀物新人賞」と「オール讀物推理小説新人賞」という二つの新人賞があったのですが、第88回から、この二つが統合されたため、両ジャンルの作品が合流して一つのタイトルを争奪することになったからです。私は推理小説というものを書いた意識はほとんどなかったのですが、どうやら推理小説ジャンルの代表作としてノミネートされたようで、「オール讀物推理小説新人賞」であれば、まかり間違えば受賞していたかもしれません。
ところが、じつは『江ノ電鎌倉発0番線』のミステリートリックに重大な欠陥があったことに、私は最終候補の通知をいただいた後、あらためて読み返して気づいたのです。推理小説としては完全に破綻していました。正直、血の気が引くような思いでした。(「ドーハの悲劇」の失点の瞬間をはるかに超える ガ━━(;゚Д゚)━━ン!!)
しかし、不幸中の幸いと申しましょうか、もしも、まかり間違って受賞し「オール讀物新人賞」受賞作として世に出た後になって、ミステリートリックの欠陥に気づいた読者がいたら、とりわけトリックの謎解きが人生の生きがいのような、いわゆる本格推理小説愛好家が、鬼の首をとったかのようにふれ回ったら(当時はまだSNSがそれほど発達していませんでしたが)、私の作家人生はそこで終っていたでしょう。いや、それどころか、直木賞への登竜門という輝かしい伝統ある「オール讀物新人賞」の権威が……。
ああ、考えただけで恐ろしくなります。
さて、今、『江ノ電鎌倉発0番線』をお読みいただいた奇特な方で、その致命的といってもよい「重大な瑕疵」に気づいた方は、私にご連絡ください(メールID:HQG03021@nifty.com)。正解しても賞品は出しませんが、心から敬意を表したいと思います。