江ノ島灯台エレジー
古いやつだとお思いでしょうが……
(撮影:安楽伸哉)
え、格好が武骨? けっ、鉄骨なんだからしかたねえだろ。
(提供:藤沢市文書館)
尖ってるって? 尖っててどこが悪いんだ。塔ってのは尖ってナンボだろ!
東京タワーの兄貴だって天空を突くごとくツーンと尖ってるじゃねえか。ま、あっちは鉄塔界のエリートだけどな。兄貴に比べりゃあ、俺なんかチンチクリンの……、てやんでい……。
(提供:藤沢市文書館)
けっ! 俺だって、こんなとこ来たくて来たんじゃねえやい!
(撮影:安楽伸哉)
昔は、今でいう二子玉川ってえファッショナブルなとこにいたんだぜ。「大落下傘塔」って言やあ泣く子も黙る、いや遊園地なんだがな。俺の頭のてっぺんから、本物のパラシュートで飛び降りるやつで、陸軍の飛行学校の連中だって訓練で来てたんだぜ。
おうよ、ちょっとしたもんだったんだ、俺もな。ドヤ! 見てみィ!
(『讀賣新聞八十年史』より)
あの大東亜戦争が終わって、足切られちまって、この島に……、いや、島流しじゃねえぞ! 人事異動、っていうか、配置転換、てやつよ。
まっ、ここも景色は悪かねえんだが、塩がきつくていけねえや。潮風ってのは俺の体に合わねえんだ。おかげで、自慢の鉄骨もボロボロよ。
(撮影:安楽伸哉)
で、おまえさんも、そろそろ引退したらどうか、て肩たたかれてな……。
(撮影:安楽伸哉)
おっとー! なんだよいきなり、てめえ……
なに、新人? しいきゃんどる? てやんでい、キャンデーみてえに甘いツラしやがって。
ったく軟弱な名前だな。
(撮影:安楽伸哉)
それに足腰もヤワそうだな。もっとデーンと足踏ん張れってんだ! 俺みてえによ。
何? 踏ん張ってガンバルのは流行らねえって? 柳に風でしなやかなほうがいい?
けっ! 勝手にしやがれってんだ。まあ、俺も歳だしな……。
(撮影:安楽伸哉)
そろそろ潮時……、おっと~! クレーンの野郎、もう頭、削っちまいやがって、早ええ、っつうんだよ~! コンチクショウ。
まっ、おまえさんもガンバレや。潮風だけは気をつけるんだぜ。
じゃあな、アバヨ。
(撮影:安楽伸哉)
今回は、変わりゆく江ノ島の一端を写真でご紹介しましたが、小説『オリンポスの陰翳』も変わりゆく江ノ島を見つめながら、必死に生きた人たちを描きました。読んでいただければ嬉しく思います。
『オリンポスの陰翳』ご紹介