1.鎌倉のこと

稲村ケ崎(3)新田義貞の鎌倉攻め

 稲村ヶ崎といえば、上のキャッチ画像のように、新田義貞が断崖の上から黄金の刀剣を投げ入れたところ、たちどころに潮が引いて陸伝いに鎌倉に攻め入ったという伝説が有名ですよね。
 ただ、この伝説に至るには新田軍もかなりの苦戦を強いられたようです。
 鎌倉は三方を山に囲まれ、一方(南)が海という天然の城塞都市でした。城壁となる三方の山脈には「切通し」という山を掘削した道が七つあります。(鎌倉七口については別記事【切通しシリーズ】で詳しくご紹介します) 当初、新田軍は切通しから攻め入ろうとしましたが北条幕府軍の堅い守りに阻まれて攻め入ることができませんでした。とりわけ化粧坂切通し、極楽寺坂切通しでは甚大な被害を受けたようです。そこで新田義貞が最後に仕掛けたのが稲村ヶ崎だったのです。
 黄金の刀剣を海に投げ入れて龍神に祈った、という話が有名ですが、おそらく自軍の兵へのパフォーマンスだったのでしょう。遠く上野の国(現在の群馬)から進軍してきたうえ攻めあぐね、疲れきった兵たちの士気を鼓舞するために、リーダーである義貞は一世一代の大芝居を打ったのではないでしょうか。刀剣を投げ入れたから龍神が義貞の願いを聞き入れた、などという話は現代人の私には信じられません。おそらく地元漁師に褒美でも与えて、潮の干満の時期を教えてもらったのでしょう。私も満月の大潮の晩、潮が引いて稲村ヶ崎の磯が露わになったのを見たことがあります。干上がった磯が月明かりに照らされた光景は、神秘的で幻想的な雰囲気が漂っていました。おそらく義貞は潮の引くタイミングを見計らって刀剣のパフォーマンスを演じたのでしょう。興奮した兵たちの鬨の声が聞こえてくるようです。その様子を想像すると、私には映画『史上最大の作戦』(The Longest Day)が目に浮かんできます。あの有名なミッチ・ミラー楽団のマーチと口笛が聞こえてくる、なんて言ったら年代がわかりますね。

現在の稲村ヶ崎。手前が七里ガ浜。岬の向こう側が義貞の攻め入った鎌倉市内。

 私は、『面の血脈』という小説のプロローグで、この新田義貞の稲村ヶ崎伝説を登場させています。ぜひ本編を読んでいただきたいのですが、『オリンポスの陰翳』第一刷が完売にならないと出版できません。まずは『オリンポスの陰翳』を宜しくお願いします。

■稲村ケ崎(2) -謎の洞窟- はコチラ

ピックアップ記事

  1. ショートショート『渚にて』
  2. 森園知生の著作一覧
  3. 【連載小説】『かつて、そこには竜がいた』全話
  4. 【連載小説】『俥曳き俊輔の逡巡』(全話)
  5. ひぐらしの啼く時

関連記事

  1. 1.鎌倉のこと

    【連載小説】『俥曳き俊輔の逡巡』(全話)

    このページは【連載小説】『俥曳き俊輔の逡巡』(全話)へのリンク集です…

  2. 1.鎌倉のこと

    小説『春を忘るな』の連載を終えて

    連載のあとがき1.ご挨拶 連載小説『春を忘るな』をお…

  3. 1.鎌倉のこと

    鎌倉で60年に一度行われる洪鐘祭とは?

    そもそも洪鐘祭とは?鎌倉、円覚寺の鐘楼の梵鐘は「洪鐘…

  4. 1.鎌倉のこと

    【連載小説】『かつて、そこには竜がいた』全話

     海辺のサーフィンライフを求めてプロサーファーになった智志だが、災害…

  5. 1.鎌倉のこと

    切通し(2)の2 ―極楽寺坂とラフカディオ・ハーン―

    あの小泉八雲ことラフカディオ・ハーンが極楽寺坂を訪れていた?…

  6. 1.鎌倉のこと

    ラフカディオ・ハーンの見た鎌倉(7)― 長谷寺 ―

    この記事は、ラフカディオ・ハーンの見た鎌倉(6)からの続きです。…

  1. 1.鎌倉のこと

    鎌倉の切通しシリーズ総集編
  2. 5.著作のこと

    ラフカディオ・ハーンの見た鎌倉・江ノ島(総集編)
  3. 1.鎌倉のこと

    稲村ケ崎(2) -謎の洞窟-
  4. 2.江ノ島のこと

    江ノ島に架ける橋
  5. 2.江ノ島のこと

    江ノ島ヨットハーバーの今昔
PAGE TOP