5.著作のこと

東京2020に想うこと

 新型コロナウイルス蔓延によって東京2020が延期されました。中止の可能性すら取りざたされています。現在の地球規模での感染状況を考慮すれば、それも致し方ないかもしれません。アスリートたちにとっても、オリンピック・パラリンピックを楽しみにしていた人たちにとっても大変残念なことです。


 私は1964年の東京オリンピックのとき小学4年生でした。そのころは東京都日野市にある小学校に通っていたので、学校の近くを通る甲州街道へ聖火リレーを見に行った覚えがあります。聖火ランナーが近づいてくると一生懸命小旗を振りました。沿道で一時間以上待っていたのに聖火ランナーの通過は一瞬でした。それでも聖なる火の残した煙の匂いを今でも覚えています。自転車のロードレース競技も甲州街道で行われたので、それも応援に行きました。初めて見たドロップハンドルの自転車が格好良くて、欲しくてたまらなくなったのですが、その願いがかなったのは中学に入ってからでした。

 開会式の入場行進もテレビで見ただけですが子供ながらに感動しました。赤いブレザーに白のスラックス、スカートの日本選手団。メインスタンドにさしかかると一斉に帽子をとって声援に応える。行進曲の音楽のたかまりとともに胸がいっぱいになったのを覚えています。
 オリンピックは光り輝く祭典でした。あの感動をもう一度、と私もせつに願います。でも、その光り輝く祭典の影で、暗い谷間の人生を歩むことになった人たちがいたことを、大人になってから知りました。


 陽の当たる場所があれば陽の翳ったところもある。翳に隠れた人たちのことは、埋もれたままになってしまうことが多いように思えます。それが歴史というものかもしれません。でも、東京2020の行く手に暗雲が立ち込めている今、かつての東京オリンピックの翳に隠れたところも見つめてみることに意味があるように、私は思います。
 かつての翳を想いながら、私は『オリンポスの陰翳』を書きました。このコロナ騒動で流動的ではありますが、もうすぐ出版されるはず(6月1日の予定)ですのでよろしくお願いいたします。

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