ある日の事でございます。お釈迦様は極楽の蓮池のふちを、独りでぶらぶらお歩きになっていらっしゃいました。池の中には須弥山(しゅみせん)という山がそびえています。山のふもとには10人の登山隊が蠢いていました。隊長は犍陀多(かんだた)という者が選ばれたようです。
登山隊が 須弥山に登り始めると、途中で雲行きが怪しくなってきました。
5名の隊員が「危険なので下山したほうがよい」と犍陀多隊長に進言しました。
犍陀多は「大丈夫」と登山を続行します。10名はどんなことがあっても行動を共にする約束だったので、犍陀多の指示に従いました。
九合目まで登り、頂上が目の前まで来た時、天候がかなり厳しい状況になりました。6名の隊員が「天候が回復するか、悪化するか判断できないけれど、とても危険な状況なので下山したほうがよい」と犍陀多に進言します。他の3名は、危険だけれど隊長の判断に従うと答えました。
犍陀多は「須弥山の登頂は、我々の夢であり、人々の願いだ。最後まで登りきろう!」と檄を飛ばしました。
結局、頂上付近は天候が回復し、登頂に成功。10人は無事下山しました。
下山後、隊長は「私の言った通り、思い切って挑戦したから登頂に成功できたじゃないか」とドヤ顏をしました。
隊員のある者は、「結果がどうあれ、あの危険な状態で先へ進むのは登山のリーダーとして適切な判断ではなかった。たとえ登頂が隊員の夢であっても、まず隊員の命を守ることが隊長の責務。犍陀多には隊長の資格は無い」と言いました。
隊員のある者は、「危険だったが登頂に成功したんだからいいじゃないか。犍陀多には次回も隊長を任せたい」と言いました。
犍陀多自身はどうかといえば、次期隊長の再選任にやる気満々です。
お釈迦様は蓮池の縁に立って、この一部始終をじっと見ていらっしゃいましたが、やがて悲しいお顔をされ、また池の周りをぶらぶらとお歩きになり始めました。