5.著作のこと

須弥山登山隊

 
 ある日の事でございます。お釈迦様は極楽の蓮池のふちを、独りでぶらぶらお歩きになっていらっしゃいました。池の中には須弥山(しゅみせん)という山がそびえています。山のふもとには10人の登山隊が蠢いていました。隊長は犍陀多(かんだた)という者が選ばれたようです。


 登山隊が 須弥山に登り始めると、途中で雲行きが怪しくなってきました。
 5名の隊員が「危険なので下山したほうがよい」と犍陀多隊長に進言しました。
 犍陀多は「大丈夫」と登山を続行します。10名はどんなことがあっても行動を共にする約束だったので、犍陀多の指示に従いました。


 九合目まで登り、頂上が目の前まで来た時、天候がかなり厳しい状況になりました。6名の隊員が「天候が回復するか、悪化するか判断できないけれど、とても危険な状況なので下山したほうがよい」と犍陀多に進言します。他の3名は、危険だけれど隊長の判断に従うと答えました。
 犍陀多は「須弥山の登頂は、我々の夢であり、人々の願いだ。最後まで登りきろう!」と檄を飛ばしました。
 結局、頂上付近は天候が回復し、登頂に成功。10人は無事下山しました。
 下山後、隊長は「私の言った通り、思い切って挑戦したから登頂に成功できたじゃないか」とドヤ顏をしました。
 隊員のある者は、「結果がどうあれ、あの危険な状態で先へ進むのは登山のリーダーとして適切な判断ではなかった。たとえ登頂が隊員の夢であっても、まず隊員の命を守ることが隊長の責務。犍陀多には隊長の資格は無い」と言いました。
 隊員のある者は、「危険だったが登頂に成功したんだからいいじゃないか。犍陀多には次回も隊長を任せたい」と言いました。
 犍陀多自身はどうかといえば、次期隊長の再選任にやる気満々です。

 お釈迦様は蓮池の縁に立って、この一部始終をじっと見ていらっしゃいましたが、やがて悲しいお顔をされ、また池の周りをぶらぶらとお歩きになり始めました。

ピックアップ記事

  1. 【連載小説】『俥曳き俊輔の逡巡』(全話)
  2. 森園知生の著作一覧
  3. 『金星が見える時』「まえがき」に代えて(1)
  4. 江ノ電鎌倉発0番線
  5. 【連載小説】『春を忘るな』まえがき

関連記事

  1. 5.著作のこと

    小説「南の海から聴こえてくる」(全編)

    2025年8月6日から8月12日にかけて連載した『南の海から聴こえて…

  2. 5.著作のこと

    蓮池(総集編)

    藤沢の鵠沼に蓮池があります。初めて訪れた時、子供たちがザリガニをとっ…

  3. 5.著作のこと

    【連載小説】春を忘るな(13)

    この記事は前回からの続きです。■これまでの全文はコチラ。■前…

  4. 5.著作のこと

    ウクライナ情勢に想うこと(7) ― 蜘蛛の巣作戦 ―

    ウクライナによる奇襲「蜘蛛の巣作戦」去る6月1日、ウクライナ…

  5. 5.著作のこと

    「食料品消費税0%」の問題点と「消費税全廃」の必要性

    1. 食料品消費税0%の問題点食料品消費税0%は、一見「弱者…

  6. 5.著作のこと

    『オリンポスの陰翳』表紙デザイン決定!

    『オリンポスの陰翳』の表紙デザインが決まりました。こういうものは出版…

  1. 2.江ノ島のこと

    江ノ島ヨットハーバーの今昔
  2. 5.著作のこと

    森園知生の著作一覧
  3. 1.鎌倉のこと

    中世鎌倉の港湾遺跡をドローンで空から撮影しました! ―『春を忘るな』の周辺(7)…
  4. 5.著作のこと

    ラフカディオ・ハーンの見た鎌倉・江ノ島(総集編)
  5. 2.江ノ島のこと

    江ノ島に架ける橋
PAGE TOP