5.著作のこと

ウクライナ情勢に想うこと(5) – 空気の変化 –

 マリウポリが陥落するかどうかという今日(2022年4月22日現在)、ウクライナの状況は言葉を失うほど悲惨です。

 ロシアがウクライナに侵攻した2月24日(仮にXデーとします)以降のロシアの蛮行が許されないことは明白です。この記事は、けっしてロシア(プーチン)を擁護するものではないことを申し上げたうえ、あえて書きます。

■2022年2月24日

 Xデーを境に世の中の「空気」が変わってしまったと感じるのは私だけではないでしょう。
 その日以前に「戦争が起きるかもしれない」と言ったとき、「何言ってるの」と言っていた人が、今は「ウクライナを支援しなければ……」、「ロシア(プーチン)は悪魔」、「ウクライナの人たちの祖国を守る姿勢に感動した」、「日本も、いざという時には自分たちの身は自分たちで守らねばならない」、ということを言うようになりました。(じつは、私もそういう気持ち(感情)に襲われる瞬間はあります)

 素人(専門家でない、という意)をまじえた対談番組で、一人のラッパーの若者が「戦争を止めるために早く降伏したほうがいい」と言ったとたん一蹴され、出席者(4~5人)から非国民扱いのバッシング。ウクライナの人たちがあれだけ頑張っているから世界が応援する。すぐに降伏したのでは支持は得られなかっただろう、と。たしかに、その理屈はあると思います。しかし、その「頑張り」のために、日々刻々と命が失われ、犠牲者が出続けている現実と比べて、どうしたら良いかは、もっと冷静に議論すべきと感じました。

「現象(紛争)は一面的(一方的)ではなく多面的に(相手側の視点にも立って)捉えるべき、という意見を言えば、「ロシアの味方か?」と叩かれる状況です。(私も、当ブログで河瀨直美氏の東大入学式祝辞に賛同する記事を書いたとたんTwitterのフォロワー数が減りました)
 そして、今までも言ってはいたけれど、Xデーを境に急に声が大きくなった人たちもいます。
「憲法九条の見直し」
「防衛費は対GDP比1%では少ない。2%にすべき」
「敵地攻撃能力が必要」(つい最近「敵地反撃能力」と名称だけ変えたが中味は同じらしい)
「核の共有を検討すべき」

 かつて首相だった方が亡霊のように復活してテレビ画面で見かけるようになりました。(健康が回復したのでしたら、それはそれで良かったとは思いますが)
 以上の意見については、ここで簡単には申し上げられませんが、たとえば、防衛費をGDP比で1%から2%に増やすことに何の意味があるのでしょう? 1%増やせば軍事大国中国に対抗できるようになるのでしょうか? こちらが1%増やせば敵もそれ以上増やすのは自明。そうやって軍拡競争することに何の意味があるのでしょうか?(軍需産業が潤い、その波及効果で経済が上向くという側面はありますが)

■空気の変化

 私は、Xデー以降のこの「空気」の変化をとても憂います。すでにXデーの時に、予感はしていましたが、世の中の空気がこんなにも劇的に変わることに、あっけにとられるほど驚いています。
 さきの大戦(私は関東人ですので「応仁の乱」ではなく「太平洋戦争」)のときの大本営発(プロパガンダ)に踊らされた人たちが、戦争に懐疑的な人に非国民というレッテルを貼り、お国のために出征する(死ぬかもしれない)若者を万歳三唱で送り出し、日本の空気が一色に染まった、あのドラマや映画の世界。それを今、肌で感じる「恐怖感」というより、悲しみに似た「脱力感」を覚えます。


 それほどまでの変化ではない、と感じている人もいるでしょう。また、「自分だけわかったような顔をするな」という反感を持たれる人もいるでしょう。そういうご批判は、甘んじて受け入れてもいい。しかし、いつの間にか防衛費が2%になって軍拡競争をやり、核兵器を扱う側の国になるようなことだけは避けたいと願っています。

■空気の変化に抗う

 今この時期に、この記事をブログアップするのは得策ではないかもしれません。情勢がもう少し落ち着けば、冷静な目で見てくれるようになるかもしれない、とも思います。(逆に、現在のウクライナ報道の氾濫に飽き(うんざりし)、あっさり熱の冷めた空気に転じるかもしれません。じつはゼレンスキー大統領とウクライナの人たちは、それを恐れているようです。今は世界が注目、支援してくれているが忘れられてしまうかもしれない、と……) しかし、それでは私の意図するところの意味がなくなります。私は、たとえ四面楚歌のバッシングを受けようと、「ウクライナの人たちの祖国を守る姿勢に感動した。日本もいざという時には、自分たちの身は自分たちで守らねばならない」と思っている「熱い心」の人たちに、ぜひ伝えたいことがあります。


 日本も、かつて祖国のために勇敢に戦って死んでいった人たちが大勢います。そんな彼らが死ぬ直前に思ったことは(私を含めて)誰にもわかりません。特攻で死んでいった若者の遺書というものもあります。もちろん真実の言葉もあれば、検閲の結果修正されたもの、軍人教育という洗脳の結果、歪曲された言葉もあると思います。彼らの本当の気持ち、言葉はどこにあるでしょう。私が小説を書く目的のひとつは、彼らのその言葉を探すことです。ある人物が生まれてから、どんな境遇で育ち、どんな人と出会い、別れたかを克明に辿れば(シミュレーションすれば)、死を目前にした時に、どのように想ったかを、知る(再現する)ことができるのではないかと思っています。
 私は、三浦誠二という人が、幼いころ、どんな家庭でどのように育ち、女性と出会い、やがて人間魚雷回天の特攻隊員として出撃。突入に至るまでの心像を『ひぐらしの啼く時』という小説に描きました。今、ウクライナで祖国のために勇敢に戦っている人たちを讃え、共感する人たちには、せひ読んでいただきたいと思います。でも、今の「熱い心」では、とても手に取ってもらえないでしょう。もし一人でも読んでいただければ、少なくともその人にだけは伝えることができる。そうなれば嬉しく思います。


『ひぐらしの啼く時』コチラ

『ひぐらしの啼く時』ご紹介コチラ

森園知生

※この記事は、「ウクライナ情勢に想うこと(4) – 河瀨直美「ロシアを悪者にするのは簡単」 –」からの続きです。

※次回は  ウクライナ情勢に想うこと(6) – 「国を守る」ということ – 

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