5.著作のこと

ラフカディオの旅(2)― エリザベス・ビスランドという女性 ―

ハーンの人生に大きな影響を与えた女性

1.世界一周の一人旅

その名はエリザベス・ビスランド。彼女は詩を書き、文芸を愛する、いわゆる文学少女でした。ハーンが新聞に掲載した短編小説『死者の愛』に感動し、ハーンを慕って、彼が文芸部長を務める新聞社、タイムズ・デモクラットに入社します。


  エリザベス・ビスランド

彼女は文芸ジャーナリストとしての才能とともに、誰もがうらやむ美貌の持ち主でした。また、ジュール・ヴェルヌの小説『八十日間世界一周』の記録を破る旅に出た女性ジャーナリスト、ネリー・ブライに対抗して「今夜、君も旅立ってくれ」という上司の業務命令を受けると、「ご冗談でしょ」とひと言文句を言ったものの、実行してしまうような果敢な一面をも持ち合わせた女性でした。19世紀末の交通事情、女性の一人旅であることを考えれば大胆不敵!


たった数時間で支度を済ませ、彼女は旅立った。


ヴェルヌの『八十日間世界一周』に挑む 4万5千キロを競ったふたりの女性記者、というキャッチコピーのこんな本まで出ていたとは!(当時は世界中でニュースになりました

2.二人はどんな関係だったのか?

ハーンが彼女に好意を持ち、彼女もまたハーンを敬愛していたのは間違いありません。ただ、その好意、リスペクトにどのような心情が絡んでいたかはベールに包まれています。じつはハーンの没後、1906年に、ビスランドは『ラフカディオ・ハーンの生涯と書簡The Life and Letters of Lafcadio Hearn)』を出版しています。この本は、アメリカで出版され、翻訳本は出ていませんが、『夢の途上 ラフカディオ・ハーンの生涯―アメリカ編』の著者、工藤美代子さんは、その著書で、ビスランドが、ハーンの彼女宛の手紙にある彼女に対する恋愛感情ともとれる表現を全て消してしまったかに見える、と述べています。私も、その書簡集を読みましたが(※)、拙い英語力で、その機微を読み取るのは容易ではありませんでした。それでも書簡集をひも解き、二人を覆うベールの内側を透かし見て『ラフカディオの旅』に描きこみました。


※全文が「グーテンベルク電子ブック」で公開されています。
  『ラフカディオ・ハーンの生涯と書簡(The Life and Letters of Lafcadio Hearn)』第一巻
  『ラフカディオ・ハーンの生涯と書簡(The Life and Letters of Lafcadio Hearn)』第二巻

3.『ラフカディオの旅』での解き明かし

『ラフカディオの旅』の前半(第一部)では、ハーンがアメリカ時代をふり返り、青春の蹉跌を独白します。そして後半(第二部)では……。

・ハーンは、なぜ日本に来たのか?

・なぜ日本で生涯を終えることになったのか?

地球を三分の二周するハーンの漂泊の旅路をたどりながら、その答えを探ります。豊富な知識と多彩な文芸の才能を持った彼の旅には、苦悩と感動、そして不思議な出会いに溢れています。ぜひ、『ラフカディオの旅』で彼の漂泊の人生を疑似体験してください!


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