今、世の中では2020東京オリンピックの開催是非が議論になっています。ここで、その是非については述べません。東京オリンピックへの想いは『オリンポスの陰翳』に込めましたが、最近、ふと気づいたことについて書きます。
1973年にNHKで『つぶやき岩の秘密』という少年向けドラマが放映されました。新田次郎の小説を映像化したものですが、ドラマのストーリーはさておき、タイトル曲の「遠い海の記憶」が、とても強く印象に残っています。
『遠い海の記憶』詩:井上真介 曲:樋口康雄 歌:石川セリ
いつか思い出すだろう
おとなになった時に
あの輝く青い海と
通り過ぎた冷たい風を
君を育み見つめてくれた
悲しみに似た風景
追憶の片隅で
そうっと溶けてしまうのだろう
今だ 見つめておけ
君のふるさとを
その美しさの中の
本当の姿を
いつかおとなになって
君はふと気付くだろう
あの輝く青い海が
教えてくれたものは
なんだったのだろうと
いつか、この曲のイメージで物語を描きたい。あるいは映画を撮りたい、と漠然と思いました。「漠然と」とは、まだ自分が小説など書くことになるとは思っていなかった頃だからです。
いつしか小説を書くようになり、新人文学賞に応募するようになって、オール讀物新人賞の最終候補に残ったものの、その後は鳴かず飛ばず。昨年、ようやく『オリンポスの陰翳』を出版しました。その物語を描く間、「遠い海の記憶」を思い出したり、イメージしたことはなかったと思います。ところが、つい最近、ふとこの曲を聴くことがあり、はっとしました。『オリンポス』を書いている間中、この曲が頭のどこか(胸の中?)でずっと鳴っていたのではないか? 歌詞と物語には、なんの脈絡もありません。でも、きっと、私は、この曲に書かされていたのではないか、と感じています。
オリンピック開催は「是非に及ばず」。小説『オリンポスの陰翳』を読んでいただければ嬉しく存じます。
■『オリンポスの陰翳』のご紹介