ラフカディオ・ハーンとの出会い
1.知られぬ日本の面影(Glimpses of Unfamiliar Japan)
私は3年前(2020年9月)に、当ブログで「ラフカディオ・ハーンの見た江ノ島」と題し3回連載の記事を書きました。きっかけは「切通し(2)の2 ―極楽寺坂とラフカディオ・ハーン―」を書いた時に、ラフカディオ・ハーンが書いた日本見聞録『Glimpses of Unfamiliar Japan(知られぬ日本の面影)』という著作に出会ったからでした。あの『怪談(KUWAIDAN)』を書いた小泉八雲ことラフカディオ・ハーンが鎌倉、江の島を訪れていたことを、その本で始めて知ったのです。(日本語訳は池田雅之訳『日本の面影』、平井呈一訳『日本瞥見記』が出版されています)
『怪談(KUWAIDAN)』表紙
『Glimpses of Unfamiliar Japan』表紙
池田雅之訳『日本の面影』
平井呈一訳『日本瞥見記』
池田雅之先生(以下敬称略)の『日本の面影』は、平易で優しい日本語に翻訳されていて、とても読みやすいのですが、『Glimpses of Unfamiliar Japan』の全文を翻訳したものではありません。平井呈一先生(以下敬称略)の『日本瞥見記』は、おそらく全文訳ですが、少々硬いというか古風な日本語訳で、私にとって両者は、帯に短したすきに長し。原文の『Glimpses of Unfamiliar Japan』は少々高価なので購入を躊躇していました。ところが、じつにありがたいことに、原文の全文が米国のプロジェクト・グーテンベルクという電子図書館で無料公開(しかも著作権フリー)されているのです(※)。そこで、この三つの資料を参考にしながら、当ブログで「ラフカディオ・ハーンの見た鎌倉」を連載したいと思います。
※『Glimpses of Unfamiliar Japan』(プロジェクト・グーテンベルク)はコチラ
2.ラフカディオ・ハーンの鎌倉・江の島訪問
ラフカディオ・ハーンは1890年(明治23年)4月4日、横浜に到着後、間もなく鎌倉、江の島を訪れています。そのときのようすは、『Glimpses of Unfamiliar Japan』の「Chapter Four A Pilgrimage to Enoshima(第4章 江ノ島詣で)」の章に記されています。
ハーンの日本の旅には、アキラ(真鍋晃)という青年が、通訳として同行しています。おそらく、実在した人物と考えられているのですが、その素性や、その後の消息はハーン研究者の間でも、よく分かっていません。明治時代の人物であれば、大抵は調べがつくものなのですがね……。
ハーンは、横浜から鎌倉まで、どのように行ったか『Glimpses』には記されていません。彼は、歩いたり人力車で見て回るのを好み、汽車のような文明の利器を嫌っていました。しかしこの時は、その足取りと行動時間から推測して、おそらく、すでに国府津駅まで開通していた東海道線で大船駅まで行き、そこから先の鎌倉から江の島までを人力車で移動したと思われます。
明治時代の東海道線(川上幸義著グラビアより)
明治時代の人力車と外国人観光客(注:写真の乗客はハーンではありません)
ハーンは俥夫が頭に被っている笠を「white hat which looks like the top of an enormous mushroom(白い、大きなキノコの笠のような帽子)」と表現していますが、なるほど、と思いますね。
当時の人力車の賃料は、一日どこまで行っても75銭だったそうです。1円=1ドルだった時代、外国人にとっては、かなりリーズナブルに感じたようです。
『Glimpses』によれば、大船駅(推定)を人力車で出発し、円覚寺、建長寺、円応寺、高徳院(大仏)、長谷寺を周り、それから江の島に向かっています。(横須賀線も開通していましたが、北鎌倉駅はまだありません)
3.閑話休題
ここで、少々宣伝になりますが、私もハーンの著作と出会ったことで、彼にとても興味を持つようになりました。というのも、ラフカディオ・ハーンといえば小泉八雲。小泉八雲といえば『怪談』と、短絡的に思っていたのですが、それは彼の持つ世界の、ほんの一部(100分の1くらい?)でしかなかったのです。ギリシャで生まれ、アイルランドで育ったハーンは、ケルト神話やアイルランド妖精譚に触れました。そしてアメリカで仏文学、米文学、さらに仏教をも独学し、新聞記者としても活躍しました。西インド諸島を訪れてクレオール文化も調査、研究しています。他にも挙げたらきりがないほど多くの分野に関心をもって研究しています。日本滞在は短期間の予定だったようですが、鎌倉、江の島を訪れたことで、すでに松江に行く前に日本での長期滞在を決意したのではないかと私は考えています。なぜ彼が日本を選び、骨を埋めることになったのか、彼の生い立ちと足跡を辿ることで、その謎を探る小説を書いてみようと思いました。(仮に)題して『ラフカディオの旅』※
このブログ記事は、『Glimpses of Unfamiliar Japan』の「Chapter Four A Pilgrimage to Enoshima(第4章 江ノ島詣で)」に限定し、小説執筆と並行して書くことになりますので、あまり頻繁には更新できないと思います。何卒ご容赦願います。m(*ᴗ͈ˬᴗ͈)m
※後日追記:おかげさまで『ラフカディオの旅』書き上げ、2月1日に出版しました。絶賛発売中です!
『ラフカディオの旅』はコチラ
■次回「ラフカディオ・ハーンの見た鎌倉(2)― 円覚寺 ―」はコチラ