5.著作のこと

ウクライナ情勢に想うこと(2) – ゼレンスキー国会演説 –

「ゼレンスキー国会演説」備忘録

 2022年3月23日、ウクライナ大統領、ゼレンスキー氏が日本の国会で演説しました。この記事は、演説についての私個人の備忘録として作成したものですが、必要な方に共有いただければ嬉しく思います。
(前回の「ウクライナ情勢に想うこと(1) – 明日の神話 –」はコチラ

演説の全文はコチラ

■演説の要約

①日本の援助への感謝(謝辞)

②日本は世界とウクライナの平和について、アジアのリーダーの役割を果たしている(果たすことに期待している?)

③ロシアによってチェルノブイリ原発が占拠され、その損傷について調査するには、ロシア撤退後、何年もかかる。

④ロシアが核兵器を使用した場合、どう対応すべきか世界中の政治家が議論すべき。

⑤ウクライナでは(2022年3月23日現在)数千人が殺され、内121人は子ども。およそ900万人が避難を強いられている。

⑥(今回の戦争について)国際機関が機能しなかった。国連の安全保障理事会でさえも機能しなかった。機能するために、ただ議論するだけでなく決断し影響力を及ぼすためには、改革、そして誠実さが必要。

⑦すべての侵略者たちに、戦争を始めたり世界を破壊したりすれば大きな罰を受けることになることを知らしめ、思いとどまらせることが必要。責任ある国々がまとまって平和を守るのは全く論理的で正しいこと。

⑧日本が道義に基づいた立場をとり、ウクライナに真の支援をしてくれていることに感謝する。
 日本はアジアで初めて、ロシアに圧力をかけ、ロシアに対する制裁に踏み切ってくれた。
 これを続けて欲しい。そしてアジアのほかの国々とともに力を合わせて実行し続けて欲しい。

⑨ロシアとの輸出入を禁止し、軍に資金が流れないよう、ロシア市場から企業を引き揚げる必要がある。

⑩ロシアにより破壊された都市に人々が戻れるよう、ウクライナの復興について考え始める必要がある。人は、ふるさと、住み慣れた故郷に戻らないといけない。

⑪新しい安全保障体制を構築しなければならない。既存の安全保障体制を基盤にして、それはできるのか? 絶対に出来ない。(国連、NATOへの失望?)

⑫新たなツールや新たな保障体制が必要。その発展のため、日本のリーダシップが不可欠。

⑬日本とウクライナは遠く離れているが、似たような価値観を持っている。同じように温かい心を持っているので、両国間の距離は感じない。両国の協力、そしてロシアに対するさらなる圧力によって、平和がもたらされる。

⑭ウクライナに栄光あれ! 日本に栄光あれ!

■私個人の所感

 当日、LIVEで視聴した時の私の率直な感想は、ゼレンスキーは疲れている、でした。ロシアの侵略からおよそ1ヶ月、国家のリーダーとして日夜休むことなく陣頭指揮をとってきたのですから当然ですが、これまでの他の演説のように、祖国のために国民一丸となって闘う。絶対に負けない。NATOに対して飛行禁止区域を設定するよう強く要望、といった勇ましい言葉ではなく、トーンダウン(パワーダウン)しているように感じたのです。

日本の憲法、国際的立場に配慮して、即効性のある武力援助を期待することは不可能と諦めている印象も受けました。ところが、翌日、翻訳全文を見て、改めて感じたのは、言葉は柔らかいものの、長期的展望としてはとても重要なことを提言していることに気づきました。(もともとヒアリングの悪い耳なのでLIVEの同時通訳では聞き取れていなかったのです)

 まず、上記要約⑥⑦⑪の通り、NATO、国連などの国際機関へのゼレンスキーの失望は相当大きく、その点は私も(わかってはいたものの)まったく同感で、あらためて脱力感を覚えたのは私だけではないと思います。NATOから武器供与の援助はあるも(現在ウクライナが善戦しているのは、西側からの情報、ハイテク技術、高性能兵器の供与が大きく貢献していることは事実ですが)、武力介入、協力がまったく得られず孤軍奮闘の状態を憂いているのを感じました。(まさに前回の記事で古代ローマのコロセウムで闘うグラデュエーターにイメージを重ねたとおりです)


か、顔も似ている…… (;^_^A

現在の国連、NATOは平和を脅かされることを防ぐ力(平和維持機能)は無いと断言し、国連の改革(または新たな安全保障体制の構築)の必要性を強く訴えています。そして、日本はそのリーダーシップを担う役割があると言われたことについては責任の重さと同時に、やや買いかぶられ過ぎの感があります。

また、⑧の通り、日本がアジアで初めて、ロシアに対する経済制裁に踏み切ったことへの謝辞とともに、その制裁を続けて欲しい。さらに⑨の通り、ロシアとの輸出入を禁止し、軍に資金が流れないよう、ロシア市場から企業を引き揚げる必要がある、とここで初めて具体的な要請をしています。ですので、日本が真摯に受け止めるべきは、現在の制裁を続けるのみならず、さらなる制裁の強化をゼレンスキーは望んでいるということです。武力援助をしない(出来ない)日本としては、孤軍奮闘する中で多くの生命が危険にさらされ日々失われているウクライナという国を、ただ見ているのではなく、その要請(心からの懇願)に真摯に応えるべきではないでしょうか。そのためには、武力という生命、流血のリスクのかわりに「経済的な痛み」を覚悟しなければならないのは言うまでもありません。(ただ、戦争を終わらせるためには、追いつめるだけではないシナリオが必要なのは前回の記事に書いた通りです)
 そして、⑪⑫の通り、まったく安全保障を機能させられない国連安全保障理事会の改革は日本のみならず全世界が担わなければならない課題です。

森園 知生

ウクライナ情勢に想うこと(3) – 戦争犯罪という言葉への違和感 –」へつづく

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