1.鎌倉のこと

『ひぐらしの啼く時』の舞台(1)― 江ノ電鎌倉駅 ―

江ノ電鎌倉駅

ホームタウンへの玄関口

 東京の勤め先から横須賀線で帰ってきて鎌倉で降り、江ノ電のホームに来ると、じつにほっとした気分になったものです。


JRから江ノ電への連絡口。ここはホームタウンへの連絡口でもあります。


単線の江ノ電。あ、行っちゃった。次は何分待ち?
通常は12分間隔ですが、夜遅くなると30分待つことも……。

 
 ロンディーノの裏窓から、かすかに漏れる灯。アンティーク調の店内の様子がホームから垣間見え、コーヒーの香りが漂ってくるようでした。
 それまでとはうって変わって時間はゆっくりと流れ、ホームの向かい側に、ペンキで描かれた地元の商店や病院の広告看板がずらりと並んでいました。

 仕事で夜遅くなったときは江ノ電の本数も減ります。ベンチに座って何十分も看板を眺めていることもありました。すると、映画『ハリー・ポッター』の9と3/4番線が現れたかのように、別世界へ旅立ってしまいそうな気分にもなりました。(その感慨は『江ノ電鎌倉発0番線』の冒頭に書きました)

江ノ電鎌倉駅の幕開け

 江之島電氣鐵道は1900年(明治33年)に設立、1902年9月1日に藤沢を起点として片瀬(現在の江ノ島駅)までが開通。その後少しづつ延長されて鎌倉へたどり着きました。ですから鎌倉は終着駅。藤沢行きが上りで鎌倉行きが下りです。鎌倉といっても当初は小町駅という名称でした。場所も若宮大路を挟んで、現在とは反対側にありました。(下図参照) 現在の場所に移ったのは1949年(昭和24年)だそうです。


(所蔵:新関光二)
昭和16年4月13日撮影 撮影地駅 小町309番地
横須賀鎮守府 検閲済 許可番号八第二十一号
当時は要塞地帯だったため撮影が制限されていたので、この写真はとても貴重です。

現在(2022年)でも旧型車両が走っていて、木製の床板からワックスの匂いがプンプンということも。

このチョコレート色した、通称「チョコ電」は2005年まで走っていました。

小説『ひぐらしの啼く時』


 小説『ひぐらしの啼く時』の物語は、終電間際の江ノ電鎌倉駅から始まります。
人気のなくなったホームに若い二人が寄り添うように立っていました。二人は学生時代のサークル仲間でしたが、その日、OB会で数年ぶりに再会しました。偶然にも二人とも鎌倉の江ノ電沿線に住んでいたことで、連れだって帰宅するところでした。でも……、本当に数年ぶりだったのか? 再会は本当に偶然だったのか? 物語は江ノ電鎌倉駅から始まります。そして、長い時の流れをさかのぼり、秘められた謎が解き明かされてゆきます。
(冒頭部分は、下のAmazonサイトで「試し読み」ができますのでご覧ください)


『ひぐらしの啼く時』はコチラ

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次週は『ひぐらしの啼く時』の舞台(2)― 和田塚 ―

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