5.著作のこと

ウクライナ情勢に想うこと(7) ― 蜘蛛の巣作戦 ―

ウクライナによる奇襲「蜘蛛の巣作戦」

去る6月1日、ウクライナによるロシアの戦略爆撃機基地攻撃がありました。
ウクライナ保安庁の発表などによると、117機ドローン攻撃により、ロシア軍の戦略爆撃機41機損害を与えたしています。(正確な破壊数は不詳) 
ロシアの側の被害は70億ドル(日本円で1兆円)としています。軍事評論家をはじめ多くの識者が戦史に残る歴史的な作戦と評価しています。

平和を願う立場としては、決して喜ばしい事ではありません。しかし、ロシアはウクライナへ一方的に侵攻し、無差別に多数の民間人を殺傷しているのに対し、このウクライナの「蜘蛛の巣作戦」は軍事施設ピンポイントで狙ったものであることを考えれば、正直のところ、私にもウクライナを讃えたくなる気持ちがあります。
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戦争の概念を変えた?


多くの識者によれば、今回の「蜘蛛の巣作戦」は、「戦争」の概念を根本的に変えてしまったと評しています。今回のドローンは1機6万円とも数十万円ともいわれ、正確な数字はわかりませんが仮にドローン117機での攻撃とすれば、ウクライナは702万円~6000万円のコストで(もちろん他の諸経費もありますが)、ロシアに1兆円の損害を与えたことになります。ミサイルや高性能戦闘機などを保有する軍事大国に対して、小国(テロリストでさえも)が十分に戦えることを証明してしまった。これが識者の言うところの「軍事史における歴史的転換点」なのです。
※第二次世界大戦では大戦艦による戦いから航空機戦に変わり、現代ではミサイルへと移っている軍事史の変遷については3年前の弊ブログ記事でも述べました(ウクライナ情勢に想うこと(6)軍事力

軍拡競争の無意味さ


軍事費については、GNP費何パーセントということが常に論議されますが、今回の「蜘蛛の巣作戦」は、そんな論議の無意味さを証明してしまいました。一機100億円とも200億円ともいわれる最新の戦闘機や1発当たり数十億円の弾道ミサイルに対し、ドローンは1機数万円から数十万円。必要な軍備の中身を検討することなく金の総額を論じ合うことに何の意味があるのでしょうか?
(同じことを前回(3年前)のウクライナ情勢に想うこと(6)軍事力でも述べました)

では日本もドローン装備をすればよいのか?

答えは「ノー」だと思います。
ドローン攻撃は軍事大国であるか否かにかかわらず、「その気になれば」どんな破壊も可能なのです。
よく言われていることですが、日本の原子力発電所は海辺に点在しています。悪意を持った敵国、テロリストにドローン攻撃を仕掛けられたら、日本という国はひとたまりもありません。いや、それはどこの国にとっても同じです。

真の抑止力とは?

安全保障では、「抑止力」という言葉がよく使われますが、昨今の状況で、いったい軍備による防衛が可能なのでしょうか? つまり、どんな軍事大国になっても武力では防ぎようがない時代になりつつあるのです。私には、「裸で拳銃を突きつけ合っているようなもの」に見えます。どちらにとっても拳銃は防御の道具にはならないのです。防弾チョッキを着ればいい? 今回のドローン攻撃を見れば、もう有効な防弾チョッキなど無いことが解ります。軍事大国ロシアの防空システムが機能していないのですから。

ドローン攻撃を受けて炎上する戦略爆撃機

ならば、どうすればいいか? 物理的(ハードウェア)な対応策が無い以上、ソフトウェアによる防御しかないのではないでしょうか。
そのソフトウェアとは何でしょう? 簡単ではありませんが、外交、国連での協調……、じつに歯がゆいけれども、そういう地道な作業ともういちど真摯に向き合うしかないのではないでしょうか?
 

以上「ウクライナ情勢に想うこと」を久々に書きました。
これまでの記事は以下の通りです。

ウクライナ情勢に想うこと(1) – 明日の神話 –
ウクライナ情勢に想うこと(2) – ゼレンスキー国会演説 –
ウクライナ情勢に想うこと(3) – 戦争犯罪という言葉への違和感 –
ウクライナ情勢に想うこと(4) – 河瀨直美「ロシアを悪者にするのは簡単」 –
ウクライナ情勢に想うこと(5) – 空気の変化 –
ウクライナ情勢に想うこと(6) – 「国を守る」ということ –

ちなみに私もドローンを使った取材活動をしています。
こちらはドローンの平和利用です。
和賀江島をドローンで空から見たら

 

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