ラフカディオ・ハーンが日本に骨を埋めることになった訳
■『ラフカディオの旅』で解き明かす
『怪談(KWAIDAN)』の作者として有名なラフカディオ・ハーンは、松江を訪れ、日本の美と出会い、武家の娘、セツと結婚し、日本へ帰化した、とされています。間違いではありません。でも、日本に帰化し、骨を埋めることになったことについては、じつは深~いわけがあったと、彼の著作を通して私は推測しています。というのも、来日直後に訪れた鎌倉、江の島で、ハーンのその後の人生に大きな影響を与える出来事に遭遇していたことは、あまり知られていません。『ラフカディオの旅』は、影に隠れた彼の生きざまに光をあて、解き明かしてゆきます。
『ラフカディオの旅』はコチラ
第一部「旅の始まり」では、ギリシャの島で生まれ、アイルランドで育ち、アメリカへ渡ったハーンが新聞記者、文学者として活躍する様子が描かれます。第二部「そして日本へ」では、あまり知られていない鎌倉、江の島への訪問で遭遇した不思議な出来事と、日本を終の棲家とすることになった秘密が解き明かされてゆきます。
『ラフカディオの旅』を書くにあたって、ハーンの足跡をたどって様々な資料と出会いましたが、以下の記事は、その取材メモをもとにブログ掲載したものを再掲しながら加筆したものです。(「2.ラフカディオ・ハーンの見た江ノ島」までは、以前の記事の再掲(リンク)です)
■生い立ちから来日まで
ラフカディオの旅(1)― ギリシャで生まれ、アイルランドで育ち…… ―
ラフカディオの旅(2)― エリザベス・ビスランドという女性 ―
■鎌倉・江ノ島への旅
1.ラフカディオ・ハーンの見た鎌倉
1.ラフカディオ・ハーンの見た鎌倉(1)― まえがき ―
ラフカディオ・ハーン=小泉八雲=怪談と、何とな~く思っていた私が、彼の意外な側面を知った日。
2.ラフカディオ・ハーンの見た鎌倉(2)― 円覚寺 ―
来日直後のハーンは、円覚寺ですでに「漱石」と遭遇していた?
3.ラフカディオ・ハーンの見た鎌倉(3)― 建長寺 ―
ハーンは日本での著作のいたるところで地蔵菩薩を愛でています。建長寺は、その地蔵菩薩を本尊とするお寺でした。
4.ラフカディオ・ハーンの見た鎌倉(4)― 円応寺 ―
閻魔大王と遭遇したハーンは、思わず後ずさり。仏教の知識があった彼の目に、地獄の大王は、どう映ったのか?
5.ラフカディオ・ハーンの見た鎌倉(5)― え? 鶴岡八幡宮に行ってないの? ―
ハーンは紀行文でも、鶴岡八幡宮についてはまったく触れていません。鎌倉名所の筆頭である八幡宮をあえて無視したのはなぜか? この記事では、その謎に迫ります。
6.ラフカディオ・ハーンの見た鎌倉(6)― 大仏(高徳院) ―
ハーンは大仏を「美しさと魅力に満ちている」と讃え、与謝野晶子は「美男におはす」と歌った……。
7.ラフカディオ・ハーンの見た鎌倉(7)― 長谷寺 ―
ハーンの記した「観音の伝説」は、のちに『怪談(KWAIDAN)』に代表される再話文学の始まりだったのか?
8.ラフカディオ・ハーンの見た鎌倉(8)― 極楽寺坂切通し ―
「極楽寺坂切通し」はトワイライトゾーン。ハーンがいずれ小泉八雲となってゆく異界へのトンネルだったのか?
そして、鎌倉を後にしたハーンは江ノ島に向かいます
注:この絵はAI(Bing Image Creator)によって作成した想像画です。
2.ラフカディオ・ハーンの見た江ノ島
ハーンのたどった島内のルート
1.ラフカディオ・ハーンの見た江ノ島(1)
海と美の女神を祀る神の島、江ノ島上陸の感動をつづる。
2.ラフカディオ・ハーンの見た江ノ島(2)
辺津ノ宮から中津ノ宮へ。
ハーンの目には、何もかもがもの珍しく映ります。
3.ラフカディオ・ハーンの見た江ノ島(3)
奥津ノ宮から稚児ヶ淵、岩屋(龍窟)へ。
美の女神、弁財天を探し求めて島内を巡ったのですが……。
3.ラフカディオ・ハーンは鎌倉、江ノ島を巡って何を見たのか?
『Glimpses of Unfamiliar Japan(知られぬ日本の面影)』は、日本人が読むことを目的にした著作ではなく、西洋の人々に向けて日本を紹介した紀行文です。
『Glimpses of Unfamiliar Japan(知られぬ日本の面影)』
西洋近代文明に背を向け、東洋、特に日本の美に心酔するハーンは、日本人にしてみれば面映ゆくなるくらい日本を賞賛します。『Glimpses of Unfamiliar Japan』には、そんな日本の美観が次々と描かれてゆきます。まだ日本を見たことのない西洋の人々は、ハーンの美文に酔いしれることでしょう。しかし日本人の私が読むと、なぜ? どうして? と思うところが時々あります。
「ラフカディオ・ハーンの見た鎌倉(5)」では、鎌倉を訪れることに胸を躍らせてやってきたハーンが、鎌倉名所の筆頭である鶴岡八幡宮について、ひと言も触れていない不思議(違和感)について考察しました。また、江ノ島では、美の女神と称して、弁財天像を求めて島内を周りますが、ついに探し当てることができませんでした。今ならば、私たちは、江の島へ行って、辺津宮の隣にある八角のお堂、奉安殿に行って拝観料200円を払えば、誰でもそのお像を見ることができます。二体ある弁財天像のうち、八臂弁財天(はっぴべんざいてん)は、源頼朝が奉納したものと伝えられており、ハーンが訪れた明治時代には、確実にあったはずです。
向かって右が八臂弁財天(はっぴべんざいてん)、左が妙音弁財天(みょうおんべんざいてん)
なぜハーンは弁財天像を見ることができなかったのでしょうか? それでも、「江ノ島詣で」の最後には、江ノ島を訪れることができたことに感動し、島の美しさ、素晴らしさを、褒めたたえています。弁財天像を見ることができなかった無念には触れず、清々しい文章で締めくくっていることにも、「あの好奇心の強いハーンが、どうして?」と思ってしまいます。『Glimpses of Unfamiliar Japan』には、いくつもの不思議、違和感があったのです。しかし、それは『ラフカディオの旅』の中で解き明かすことができました。